「2015クルーザー安全講習会」無事終了
博多湾をベースに活動する3つのヨットクラブ、玄海ヨットクラブ(GYC)、福岡ヨットクラブ(FYC)、博多ヨットクラブ(HYC)と福岡市ヨットハーバー管理事務所が合同で4月12日(日)に「クルーザー安全講習会」を開催しました(10:00~15:30)。 ※写真は左から順に経過を表しています。また画像をクリックすると拡大します。
ここ数年クルーザーヨットからの落水事故が頻発しています。「落水」は「死亡」に直結するきわめて憂慮すべき事態ですので先ずは落水しないことが肝心です。昨年2014年にはJSAF日本セーリング連盟が把握している範囲で国内では5件の落水事故が発生しています。昨年8月には相模湾で開催されたヨットレースにおいて71歳のヘルムスマンが強風によるブローチングで落水するという事故が発生していますが幸いにも約2時間後に捜索活動中の巡視艇に救助されて一命を取り留めました。他の4件においても幸いにも無事に救助されていますが、いずれも自艇での救助はできていません。海では安全には細心の注意を払っていても避けがたい突発的な状況に遭遇することがあります。いざという時に適切な対応ができるか否かでダメージを最小限に食い止めることができます。日ごろから安全への配慮に心がけるとともに正しい知識を身に着けておくことが大切です。昨年に続き今年もJSAF日本セーリング連盟外洋安全委員会の大坪委員長を講師にお招きして、クルーザーのオーナー、クルー75名の皆様に参加いただき安全講習会を開催しました。今年は博多湾内だけではなく佐賀市や唐津市、福津市からも参加がありました。会場内の一角にはハーバー内マリンショップ・シップチャンドラーさんの協力で、ライフジャケット、短めのテザー(ハーネスライン)、ヒービングライン、エマージェンシーライト、シーマーカー(着色剤)、落水者引き上げ用のテークル装置など安全装備品を展示・紹介するコーナーも設置しました。開講に先立ち、主催者を代表してハーバー施設管理者の立場から福岡市ヨットハーバー管理事務所上野所長、続いてヨットクラブを代表してGYC玄海ヨットクラブ末松会長の挨拶がありました。
午前の部は東京から来ていただいたJSAF日本セーリング連盟外洋安全委員会の大坪委員長から「安全意識と責任」「落水救助より落水しないこと」「ハーネステザーとライフジャケット」「最近の落水事故の実例」をテーマに講話をしていただきました。最近はレースやクルージングなど高齢者の割合が高く、航海術や操船技術の知識は豊富であるがとっさのときに頭では分かっていても体が付いて行かないという、加齢による体力の衰えを十分に認識しておくことも被害を防ぐために大切だとの話がありました。また安全訓練は事故後の対応であり、やはり事故前の対応(事故を起こさない対応)が重要であるとの話もありました。安全のためには帆走技術の向上が絶対のベースである、テザー(ハーネスライン)が船に繋がっていればいいというのは誤りで船の中に留まる(デッキから投げ出されない)ことが大事という話もありました。最後に各種テザー、ライフジャケット、落水者捜索機器の紹介と最近の落水事故の実例紹介がありました。
午後からは福岡市消防局救急課の救急救命士を講師に「救急救命の現状と対応」「心肺停止」「低体温」「心臓マッサージ・人工呼吸・AED取扱い」「脳卒中」について話をしていただきました。講習の最後には参加者による心臓マッサージの実技指導もありました。
続いて福岡海上保安部交通課の専門官から「落水事故」「遭難通報」「海上保安部の救助体制」「救助を待つ待機態勢」などについて話をしていただきました。事故に遭遇した時などの緊急通報では、通報手段として衛星携帯電話、船舶電話、国際VHFなどの通信機器があるが、ほとんどの皆さんが所持している「携帯電話」で「118番」をダイヤルすると海域を管轄する海上保安本部の指令センターに直接繋がります(福岡、佐賀、長崎、大分と山口の一部の海域は北九州市門司の第7管区海上保安本部)。携帯電話の通報が優れているのは発信者の位置が誤差5mほどで分かるため管轄する海上保安部(海上保安署)にただちに所要の態勢を指示することができます。荒れた海では巡視船・艇が直接ヨットに接舷することは極めて危険であるため、遭難者を救助するには通常はヘリコプターで行うとのこと。ただしヨットはマストや索具があるためヘリコプターから救助員を直接ヨット上に降ろすことができないなどの現場での苦労話もありました。何はともあれ「絶対に海に落ちてはダメ、海に落ちないようにすることが一番」ということでした。
室内での座学はこれで終了し火せんや信号紅炎など信号弾の発射・点火訓練のためディンギーヤード突端の岸壁に移動しました。先ずは海上保安部員から信号の種類と点火の要領の説明があり、受講者が実際に手に取っていよいよ点火します。最初はパラシュートフレアを発射します。パーンという音とともに信号弾が勢いよく上空に飛び出していきました。次は信号紅炎に点火しました。安全備品としてヨットに装備している信号弾ですが、ほとんどの方が使ったことがなく皆さん熱心に見守っていました。
最後に「落水者救助訓練」です。岸壁前のゲストポンツーンに係留した2艇のヨット(24フィート、33フィート)で落水が発生し、それぞれの方法でヨット上に引き上げる訓練を行いました。強風で波の高い海を帆走中に大きな横波を受けてヒールした際にクルーが落水したという想定のもとに落水者確保、引き上げまでの手順を実践しました。昨年は落水者役を元気のいい大学ヨット部の学生が務めましたが今年はよりリアル感を出すために50代男性と30代女性を起用しました。
1番艇は会員艇“Summertime”(24フィート)。落水者にライフスリングを投下しヨットに引き寄せて、4:1のテークルを組んだ引き上げ装置の一方の端をメインハリヤードに取り付けデッキ上2mほどの高さに固定し、反対側を落水者に取り付けて大人ひとりでテークルのロープを引き込んで吊り上げていく。かなり軽々と持ち上げることができました。
2番艇は会員艇“Freestyle”(33フィート)。落水者にライフスリングを投下しヨットに引き寄せて、メインハリヤードを直接落水者に取り付けてスターン部から引き上げました。こちらも比較的楽に引き上げることができました。
今回の安全講習会は「命」に関わることであり参加者全員が熱心に受講されていました。JSAF外洋安全委員長の話では「自分を守るのは自分でしかない」が大原則であり、海に落ちないこと、自分の今の体力を知っておくこと、消防救急課の話では心肺停止状態では素早い心臓マッサージ・人工呼吸を行うこと、低体温について理解しておくこと、「脳卒中」の疑いがあるときは時間が勝負なので躊躇せずに救急車を呼ぶこと、海上保安部の話では海に落ちないことが一番、遭難した時はすぐに118番に電話することなどがポイントでした。