「2017年クルーザー安全講習会」無事終了
万一の事故や緊急時の対応など、クルーザーを安全に運航するための知識と技術を習得することを目的に、博多湾をベースに活動する3つのヨットクラブ、玄海ヨットクラブ(GYC)、福岡ヨットクラブ(FYC)、博多ヨットクラブ(HYC)が合同で福岡市ヨットハーバー管理事務所の協力を得て実施している「クルーザー安全講習会」を3月26日(日)に開催しました。今年は福岡ヨットクラブが主管しました。クルーザーのオーナー、クルーの皆さん44名(内、HYC会員艇20艇)が参加されました。開講に先立ち主催者を代表して福岡ヨットクラブの沼田会長から挨拶がありました。
講習会の午前の部はJSAF日本セーリング連盟外洋安全員会の大坪委員長から「クルーザーの安全対策について」の講話がありました。大坪委員長の講話も今年で4回目です。大坪氏は20歳からヨット(クルーザー)を始められ、30年間にわたってホームグランドである相模湾を中心に年間100日ほどヨットに乗られています。国内外のメジャーレースにも多数参加されており、国内ではジャパンカップやX-35全日本、Melges32全日本、大島レース、神子元島レース、パールレース、沖縄-東海レース、アリランレース、海外ではトランスパックレース、キーウェストレースウィーク、X-35World、Melges32Worldなど、インショア、ロングの経験も豊富です。今回の講習では、大坪氏がレースに参加する際にどのような安全対策を行っているか、自身の命を守るためには何が大切かなど、実体験に基づくお話が中心でしたので参加者も熱心に聞き入っていました。
2012年~2014年に国内でヨットの死亡事故が頻発しましたが、すべて落水によるものでした。大坪氏も長いヨット生活の中で死亡事故をいろいろ聞いてきたが、落水以外の要因によるものは無かったそうです。ゆえに、「絶対に落水しないこと。落水したら終わりと思っている。」これを信条にしているとのことです。また2012年~2014年の落水死亡事故は、全員が60歳以上のベテラン者で、ベテランであるがゆえに慣れや過信があったのではないかと推測されていました。経験や知識は豊富でも加齢に伴う体力低下などを客観的に判断し、自らに真摯に向き合うことが大切です。今回の講習で特に心に響いたフレーズは、「自分を守るのは自分でしかない」、「安全は与えられるものものではない、自分たちで確立するもの」、「乗員個々人が安全に対しての高い意識を持ち続ける」、「慣れから来る油断に注意」、「死亡に至る事故はすべて落水から起こっている」、「最大の事故防止は落水しないこと」、「艇長の責任は重要」、「オーナーの責任も重要」で、「セーリングの基本は自然に対峙すること」を強く認識することです。
落水しても無事に救助されることもありますが、そのためにはライフジャケット(救命胴衣)着用が不可欠です。いろいろなタイプがありますので、セーリングスタイルに合わせて適切なライフジャケットを選ぶことが大変重要です。最近は膨張式タイプが多く出回っていますが、いざという時に膨らまないこともあるので定期的な点検が不可欠です。実際に落水死亡事故で膨らんでいなかったケースもあるとのことです。それよりも落水しないことが一番です。そのためにはテザー(セーフティライン)で確実に船体と繋がっていることが大切です。そして、万一放り出されても身体が海中に没しないように船体の左右中央にクリップしておくことが大事です。両舷のデッキ上に這わせているジャックスティやライフラインにクリップしておくと、船体と繋がっていても身体は海の中ということになりますのでとても危険です。
昼食後は福岡市消防局からの講話。福岡市民防災センターから講師を招き、低体温症と救命(胸骨圧迫-心臓マッサージ)のお話を聞きました。人の体温は一般的には37℃で、低体温とは軽度(35℃~32℃)、中等度(32℃~28℃)、高度(28℃以下)の状態です。軽度では震えが止まらない、筋肉が硬直し出す、無気力、呼吸が速くなるなどの症状が、中等度では錯乱状態に陥る、呼吸が遅くなる、不整脈が出だすなどの症状が、高度では意識がなくなる、呼吸が止まり出すなどの症状が現れます。対処法としては、軽度の場合は〇温かいものを飲ませる(ちょっと甘めがよい。アルコールは絶対にダメ)〇乾いた衣服に着替えさせる〇呼びかけを続ける。中等度、高度の場合は直ちに救命センターに搬送すること。救命では胸骨圧迫(心臓マッサージ)を習いました。意識がないときは迷わず「119番」通報をし、呼吸がないと判断した時はただちに心臓マッサージをする(3分が勝負!)胸骨の上から1分間に100回以上のペース(120回くらいがベスト)で行い、意識が戻ったら横向きにすることが大事。最後に人形を使った実技講習もありました。
福岡海上保安部からは交通課主任航行管理官からプレジャーボートの海難防止についての講話がありました。全国の海難の状況、福岡海保管内における海難の実態、遵守事項、ライフジャケットの点検、もし事故が発生した時の対応について貴重なお話がありました。毎年3~5月の春季にはプレジャーボートによる事故が急増するとのこと。事故の種類別発生状況では機関故障、運航阻害(バッテリー過放電、燃料欠乏)、衝突が圧倒的に多いそうです。衝突はプレジャーボートと漁船が多いとのことです。福岡管内の海難事故ではプレジャーボート、漁船などの小型船舶が7~8割を占めているとのことです。万一事故が起きた場合、海保の取調べ、運輸調査委員による原因調査、海難審判による行政処分、怪我の治療、相手方の損害の補償、自船の修理と、多くの時間と労力を費やすことになります。法令に定める遵守事項は必ず守って事故を起こさないように、また事故に遭わないようにしましょう。平成30年2月1日以降、小型船舶の甲板上ではライフジャケットの着用が義務付けられ、34年2月1日からは違反点数の付与も開始されます。膨張式ライフジャケットのボンベ不具合による事故もあることから、ライフジャケットの日常点検も欠かさないようにしましょう。万一海上で事故が発生したらどうするか。直ちに人命の救助を行うとともに、「118番」やマリーナなどに事故の状況を正確に連絡しましょう。
講習会の最後は、ポンツーンに係留しているヨットを使って、バウワーク時の注意点、テザー(セーフティライン)のクリップ位置などを大坪講師が実演して、第4回目のクルーザー安全講習会を終了しました。
今年はGW期間中に日韓親善アリランレースがあるため、レース参加予定のヨットからも受講があり、皆さん一様に安全対策には万全を期そうと気持ちを新たにしました。ご協力いただいた関係機関・団体の皆様、本当にありがとうございました。